脱炭素社会に向け新たな野球施設のかたちを実現した「ゼロカーボンベースボールパーク」

阪神電気鉄道株式会社さま(以下阪神電気鉄道)と株式会社阪神タイガースさま(以下阪神タイガース)は、2025年3月からプロ野球チーム「阪神タイガース」のファーム施設を兵庫県尼崎市・小田南公園へ移転し、「ゼロカーボンベースボールパーク」として開業しました。この新施設では、太陽光発電と蓄電池による自家発電・自家消費に加え、エネットが尼崎市及び尼崎信用金庫と推進する「尼崎市エネルギー地産地消促進事業」による、クリーンセンター(ごみ焼却施設)で発電された電力由来の非化石証書を活用。これにより、施設運営におけるCO₂排出量実質ゼロ=ゼロカーボンを実現しています。
今回は、阪神電気鉄道の重森さま(以下重森)と阪神タイガースの矢浪さま(以下矢浪)に、脱炭素社会の実現に向け、地域と一体となって創り上げた新しい野球施設の取り組みについてお話しをお伺いします。
※本記事の内容は2025年7月の取材に基づくものです。閲覧されている時点で変更されている場合がございます。

右:株式会社阪神タイガース 事業本部 営業部 矢浪峻介氏
甲子園球場の知見と最新技術が結集。環境配慮型ベースボールパークの誕生
(重森) 阪神タイガースの2軍施設は、従来、西宮市鳴尾浜にありましたが、施設の老朽化や手狭さが課題となり、移転先を検討していました。しかしメイン球場とサブグラウンド、室内練習場、そして選手寮を一つの場所に集約するには広大な敷地が必要で、条件に合う場所はなかなか見つかりませんでした。
そんな折に、尼崎市さんから、お声をかけていただきました。南部地域活性化のために、阪神本線大物駅前の公園を再開発し「スポーツ・観光振興施設」として球場を建設するというご提案でした。観客席は以前の500席から4400席へと大幅に増え、駅から徒歩5分という好立地もさることながら、脱炭素社会を見据えた施設づくりや、スポーツを通じた街づくりに私たちも計画段階から参画できる点に、大きな魅力を感じました。移転決定後の2022年には、尼崎市さんと阪神電気鉄道が共同で、環境省の「脱炭素先行地域」に選定されました。これは野球施設としては日本で初めてです。
(重森) 「ゼロカーボンベースボールパーク」は、元々静かな公園だった場所へ移転するため、周辺環境や住民の皆さまへの配慮はかなり丁寧に行わせていただきました。
過去、甲子園球場で2軍の試合をしたときに、来場したお客さまに交通手段などのアンケート調査を実施し、移転後の来場者数や交通量をシミュレーションしました。そのデータに基づき、周辺への影響や騒音などを考慮しながら建設計画を進めていきました。
(矢浪) 住民説明会も、尼崎市さんが窓口となって何度も開催し、多くの皆さまからご理解をいただくことができました。当初は「応援の音やナイター照明の明るさが心配」といった不安の声もいただきましたが、最新技術で万全の対策を講じています。例えば、照明はパナソニックさんの高機能LED照明を採用し、球場外への光漏れをコントロールしています。また、音響スピーカーには、音漏れを抑制する遮音ボックスを設置することで、環境基準を下回る音量になるよう配慮しました。移転前の静かな環境をできるだけ維持することを設計コンセプトに、建築の最新技術を採用しています。
また、阪神タイガースの本拠地である甲子園球場では、長年にわたり積極的に環境活動に取り組んできました。例えば雨水をグラウンドの散水やトイレの洗浄水に利用したり、ペットボトル、ビールのプラカップリサイクルを推進したりといった活動です。そこで培った知見や、ご協力いただいている企業の皆さんとのパートナーシップが、今回の「ゼロカーボンベースボールパーク」建設においても大いに活かされています。

地産地消で実現するCO₂排出量実質ゼロの球場運営
(矢浪) 「ゼロカーボンベースボールパーク」という名前のとおり、当施設ではゼロカーボンを目指すさまざまな環境への取り組みをしております。
まず、年間消費電力の約8割を太陽光発電と蓄電設備で賄っています。SGLスタジアムのバックスクリーンの裏と室内練習場の屋根に設置した約1400枚の太陽光パネルで年間約74万kWh(キロワットアワー)強の発電をする計画で、蓄電し自家消費をしています。
また、電力の安定供給と太陽光で不足する分を補うために、尼崎市クリーンセンター(ごみ焼却炉)で発電された電気の環境価値を採用しています。
(重森) この取り組みは、尼崎市さんからのご提案で実現しました。尼崎市のごみ処理をする際につくられる余剰電力の環境価値により、実質CO₂排出量ゼロのクリーンな電力を利用できることはもちろんですが、それを「地産地消」により実践できることは、地域の皆さんと共に創るという当施設のコンセプトにおいて大きな意義があると思っています。
(矢浪) このご縁から、エネットさんとのお付き合いも始まり、当施設の理念に共感していただき、計画の初期段階から手厚いサポートをいただいています。エネットさんのようにさまざまな企業の皆さまが、「ゼロカーボンベースボールパーク」の取り組みの一環として、環境問題の解決に尽力くださっています。私たちは野球を通じて、こうした企業の皆さんの環境活動をファンの皆さんにお伝えすることも、大切な使命だと考えています。
(矢浪) その他にも、断熱性の高い建材の採用や、各施設への人感センサー付き照明の導入など、無駄な電力消費を抑え、省エネを徹底しています。新設球場だからこそ、選手の利便性を損なうことなく、高いレベルでの環境配慮設計が可能になりました。例えば、室内練習場も以前の設備は、夏場は非常に暑くて蒸し風呂状態だったのが、新しい設備では省エネで快適な空調管理を実現しており、選手からも大変好評です。実はこの球場、広さや方角、グラウンドの土や芝、さらには名物の「六甲おろし」と呼ばれる風の向きまで甲子園球場を忠実に再現しています。2軍施設としての機能性と、選手が練習に集中できる環境を両立した球場になっています。こうした先進的な取り組みは、他の球団からも注目いただいており、多くの方々が視察に訪れています。

めざすは、地域と共に未来をつくる「環境共生ハブ」
(矢浪) おかげさまで、2025年3月のオープンからわずか3カ月後の6月には、来場者10万人を達成し、多くのファンや地域の皆さんにご来場いただきました。
また、野球観戦だけでなく、当施設が地域の皆さんと一緒に環境問題を考え、行動する「ハブ」となることをめざし、さまざまな活動を展開しています。例えば、阪神タイガースの選手が「ひとり3つのエコで未来を変えよう」と呼びかける啓発動画を放映したり、今年6月には阪神タイガースと尼崎市との初の共同開催イベント「エ虎(エコ)フェス」を開催しました。広場ではさまざまなブースが出展され、子供たちを中心に楽しく環境について学べる体験をしてもらいました。9月にも尼崎市さんと市民まつりの開催を計画しています。スポーツ活動を通じたこうしたエコ活動が、官民連携のよいモデルケースになっていけるのではと考えています。
(重森) 今回の取り組みは、 野球球団の運営から、鉄道・不動産事業など幅広い事業展開をしている阪急阪神ホールディングスでも非常によいモデルケースだと思っています。当社グループでは「阪急阪神サステナビリティ宣言」として6つの目標を掲げており、その重要テーマの1つである「環境の保全」を推進するため、今回の「ゼロカーボンベースボールパーク」の運営や、阪急・阪神の鉄道全線でCO₂排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル運行」を開始するなどの施策を進めています。グループ各社が、それぞれの事業の中で環境保全の取り組みを実践することが、やがて「面」となり脱炭素社会の街づくりに繋がっていくのだと思います。

野球の力で、持続可能な社会の実現へ
(矢浪) プロ野球事業を通じて環境問題への取り組みを社会に発信していくことが、私たちの大きな役割だと思っています。クリーンセンター(ごみ焼却施設)での廃棄物発電などは大変有意義な事業なのですが、なかなか一般の方までにはその価値が伝わりにくいのが現状です。私たちが間に入ることでこうした活動がより多くの地域の皆さんに知られるきっかけとなり、一人ひとりの行動変容にも繋がっていく。そのような「好循環」を生み出すハブになりたいと考えています。
(重森) 野球界全体が向き合うべき根本的な課題として、少子化による野球人口の減少があります。野球ファンの裾野をいかに広げていくかが、喫緊の課題です。環境問題を扱ったイベントなどもきっかけにしながら、ファミリー層が気軽に集える場を提供し、横をみたらタイガースの選手が練習に励んでいる。そんな光景が日常となるような、野球と環境啓発が自然に融合する施設が私たちの理想です。その実現のため、エネットさんのような企業の皆さんと、野球を通じた環境活動をさらに進めていけたらと考えています。
Interview

阪神電気鉄道株式会社 スポーツ・エンタテインメント事業本部 甲子園事業部 重森弘毅氏
阪神電気鉄道株式会社
2025年3月に新ファーム施設「ゼロカーボンベースボールパーク」を開業。太陽光発電設備と蓄電池に加え、地域のごみ焼却施設で発電されたCO₂排出量実質ゼロの電力を活用することで、施設運営におけるCO₂排出量の実質ゼロ化を達成。省エネ建材の採用や、騒音・光漏れを抑制する最新技術で地域環境にも配慮し、野球を通じた環境啓発のハブとして、脱炭素社会の実現を推進しています。
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